Hieralchy〜おまけ〜


ルルーシュ様が連れ去られてしまった・・・。
しかも私の目の前で・・・。
よりにもよって、アノ男・・・ギルフォードに!!

なれた手つきでルルーシュ様を抱きかかえて、部屋を出て行くギルフォード卿を、私はなすすべもなく呆然と見送ってしまった。
そしてなによりもムカつくのは、なんで「お姫様抱っこ」なのだ!?
だいたい、眼鏡のヤツにはムッツリスケベが多いと相場は決まっている。
そんなヤツとルルーシュ様を一晩二人きりになどさせておけるものか!
さりとて今更二人のあとを追いかけるのはかなり情けない・・・。
私のプライドが・・・いやいや、今はそんなことを言っている場合ではない!!
こうしている間にもルルーシュ様は・・・アノ男に・・・アノ男に・・・・・・・・・ッ!!

「ああッ!!私はなんという失態をしてしまったのだ〜ッ!!」

ゴツリ、と頭を抱えながら絶叫しているジェレミアの後頭部に鈍い衝撃が走った。

「・・・うるさいぞ!」

続けて冷ややかな声が後ろから浴びせかけられる。
振り向けば不機嫌な顔をした寝起きのC.C.がジェレミアを睨みつけていた。

「うるさくて寝ていられない・・・居候なら居候らしくもう少し静かに騒げ」

居候一号のC.C.には言われたくない言葉である。

「ところでルルーシュはどうしたのだ?」

寝ぼけ眼を擦りながらC.C.が部屋の中を見回して、ルルーシュの姿を探している。
そのあまりにものんびりとした様子にジェレミアは酷い苛立ちを感じた。

「そ、それどころではない!!ルルージュ様が攫われた!」
「・・・誰に?」

慌てているジェレミアとは対照的にC.C.は暢気である。
「ルルーシュが攫われた」と聞いても慌てる様子はまったく見せない。
それどころか、むしろ楽しげなようにも見える。

「そう言えばアノギルフォードとかいう眼鏡の男はどうしたのだ?」

ニヤリと口端を吊り上げて、ジェレミアに問いかけるC.C.は実に楽しそうだった。





「ふ〜ん・・・で、お前はそれを黙って見送ったのか?マヌケだな」

それまでの経緯を聞いたC.C.はジェレミアを一瞥すると再びベッドの上に仰向けに横になり天井を見つめながら鋭い言葉を呟いた。
ジェレミアには返す言葉はない。
C.C.の言うとおり、確かに自分の行動は間が抜けていると思う。
なぜあの時引き止めなかったのか・・・今更後悔しても仕方のないことなのだが・・・。

「それで、お前はどうしたいのだ?ルルーシュのあとを追いかけるのか?」

問われて、ジェレミアは言葉につまった。
それができれば苦労はしない。

「・・・なんだ?追いかける勇気もないのか?ホントお前はマヌケなヤツだ。そんなことでルルーシュを守りきることができるのか?」

相変わらず天井を見上げながらC.C.はジェレミアに容赦はしなかった。

「・・・ルルーシュの居場所なら教えてやってもいいぞ」

―――・・・この女はなにを考えているのだ?

ぼんやりと天井を仰ぎながら呟くようにそう言った少女の無表情な顔をジェレミアはじっと見つめた。










租界内某所にある高級そうなホテルの最上階。アッシュフォード学園からもそんなには離れていない。
ワンフロア全てを使用したロイヤルスィートの一室でルルーシュは退屈していた。
ギルフォードは向こうでお茶の支度をしている。
ソファーに深く腰を落ち着けて、背もたれに凭れかかりながらぼんやりと天井を見つめている。

―――・・・随分と退屈をしているようだな?

ぼんやりとしているルルーシュの頭の中に聞きなれた声が聞こえてきた。

「C.C.か・・・」

ルルーシュは少しも慌てない。慣れているのだ。

―――あの男面白いな。
「あの男?ジェレミアか?」
―――ああそうだ。お前の前では冷静で無表情を決め込んでいるのに、あんなに表情が豊かだとは思わなかった。
「わざわざそんなことを言うために?」
―――まさか。・・・そろそろ退屈しているころだろうと思って玩具を送ってやったぞ。感謝しろ。
「ふん。余計なことを・・・」
―――強がりを言うな。本当は待っていたんだろう?
「誰があんな奴を・・・」
―――あの男が行かなければお前の機嫌が悪くなる。
「ふん・・・お前には関係がないことだろう?」
―――お前の機嫌が悪くなると後であの男がお前に虐められるからな。それを見ているのも悪くはないが・・・今はゆっくり眠りたい。あの男はお前の前以外では少し五月蝿すぎる。
「知らなかったのか?」
―――興味がないだけだ。お前は知っていたのか?
「興味がないんだろう?」
―――少し面白くなってきた。あれだけギャップが激しいくせに人前でボロを出さないとはなかなか器用な奴だ・・・。精々可愛がってやれ。
「お前に言われたくないな」

それっきりルルーシュの頭の中に声は聞こえてこなくなった。
ルルーシュは天井を見上げたまま口許に笑みを浮かべて楽しそうに目を細めた。





「姫様お茶を・・・」

ギルフォードがルルーシュの前にティーカップを差し出すのとほぼ同時に部屋の扉がノックされた。
ルルーシュはギルフォードから表情が見えないように俯いて、微かにほくそ笑む。
ギルフォードがドアを開けると、そこにはルルーシュの予想通り、ジェレミアが立っていた。
ギルフォードは少し驚いた様子だったが知らない仲ではない。
まさか追い返すわけにもいかず、仕方なしにジェレミアを室内に招き入れた。

「ジェレミア卿何か急な用か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いえ」

ルルーシュはソファーに腰掛けて脚を組んだままギルフォードの用意した紅茶を一口口に含んだ。
ジェレミアはルルーシュの目の前に立ったままその様子を黙って見ている。居心地が悪そうだった。

「すまないギルフォード。ジェレミア卿に少し話がある。呼ぶまで外してくれないか?」
「かしこまりました」

ギルフォードはルルーシュの言葉に従順である。
新しい紅茶を入れたティーポットをテーブルの上に置いて、別室へと向かうためにゆっくりと立ち上がった。
ジェレミアは黙ったままルルーシュを見つめている。
その視線に気づきながら、ルルーシュは立ち上がりかけたギルフォードの腕を掴んだ。

「ひ、姫様?」

グイと腕を引かれてギルフォードとルルーシュの顔が接近する。
その頬にルルーシュの唇が微かに触れた。

「・・・ご苦労だったなギルフォード。私の感謝の気持ちだ」
「み、身に余る光栄!わ、わ、わ私などにはも、もも、勿体無いことでございます」

顔を真っ赤にして立ち上がったギルフォードは突然のルルーシュの行動にかなり動揺しているようだった。
その横でジェレミアは顔を引き攣らせていた。
ルルーシュにとって実に面白い光景である。
ギクシャクとした足取りで別室に向かったギルフォードを見送って、ルルーシュはクスリと笑みを浮かべた。

「なんだ、姉上はあれほど忠実な部下に手をだしていないのか・・・つまらん」

「つまらない」と言いながらもルルーシュの声は楽しそうだった。
ジェレミアはキッとルルーシュを睨み見る。

「ルルーシュ様ッ!」
「なんだ?」
「コーネリア様はあんなフシダラなことはいたしませんッ!」

「そうなのか?」と惚けるルルーシュの表情は確信犯の顔をしていた。

「と、とにかく、コーネリア様の人格が疑われるような行動はお控えください!ギルフォード卿にとって今の貴方はコーネリア様なのですよ。その辺をよく自覚していただかなければ困ります」
「・・・なんだお前、コーネリアがそんなに大事なのか?」
「そうではございません。私はただルルーシュ様にもっと皇族としての行動を・・・」
「お前は俺よりもコーネリアの方が大事なのだろう?」
「違います!」
「違わないな!大体俺はすでに皇位継承権を剥奪されているし死んだことになっている。お前の大好きな皇族ですらない」
「ルルーシュ様ッ!」
「地位も名誉も権力もない俺より皇女のコーネリアの方がお前には余程大切なのだろう?」
「そんなことは・・・」
「お前は俺を恨んでいるからな」

拗ねたような顔をしたルルーシュはジェレミアにそっぽを向けた。
その仕草がまるで子供だった。
それがルルーシュの演技だとは知らないジェレミアは困り果てて、ルルーシュの傍らに近寄ると膝を折り目線をルルーシュより低くする。

「ルルーシュ様。どうか私を信じてください」

深く頭を垂れて哀願してもルルーシュは何も応えてはくれなかった。



ルル×ジェレ編に続く

ジェレ×ルル編に続く